月夜見 
“ツノ出せ・ヤリ出せ・アタマ出せ”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより
  


          




 日本の唱歌シリーズですかというタイトルが続きましたが、ちょっとばかしお久し振りの例のアレです。
(こらこら) 日本の江戸時代に、風俗や文化のよく似た此処は、グランド・ジパングという名の国で、アニメではそのまま一国だったようですが、すいません、ウチでは“藩”です。も一つ上の階層にあたる“幕府”という国政組織は、どこか遠くの土地に別にあります。でもでも結構自治独立はしているようで、藩主ネフェルタリ・コブラ様の、寛大鷹揚、余裕のある誠実な治政は、藩の人々の隅々にまで行き渡り、飛び抜けて贅沢は出来ずとも、さしたる格差もないほどほどに穏やかな社会が安定して続く、どこぞの困った国とは大違いの平和な土地であるようです。とはいえ、そんな和やかな国でも、困ったお人はいるもので。呑気な人々を小手先で騙くらかしてやろうとか、抵抗する術を持たぬ人々をいいように脅して大枚せしめてやろうとか、そういった自分勝手な悪巧みが全くないという訳じゃあない。そこで、そういった悪党を懲らしめては法によって律し、治安維持に貢献している、そんな組織も藩主様の膝下にちゃんと存在します。町を見回って直接の事件捜査にあたるのは、同心の旦那とその配下の“岡っ引き”と呼ばれる面々で。いざ逮捕だという段になれば捕り方の皆様も動員されますが、日々の警邏や情報収集、町の衆からの相談請け負いなどは、町人から指名されて十手を預かる岡っ引きの仕事。何度も言いますが、この“岡っ引き”は公的な資格職ではありませんので、細かいことを言えば何の権限もないところなのですが、同心の旦那の手飼いであることと、それなり地域の顔役であることから睨みが利いて、立派に警邏の役を果たしてもおりました。そんな立場であることから、自然と世襲制、若しくは先代からの指名制で引き継がれることも多かったようですが、このグランド・ジパングで一番若い親分もまた、その例に洩れない“ご指名”あっての登用で。喧嘩の腕っ節の強さと、そりゃあ真っ直ぐな気性と気っ風のよさ、それらを住民の方々から愛されているところを買われての襲名をしてから、まださして歳月も経ってはいないというのに。お手柄と失敗の度合いが毎回毎回シーソーゲームになる大活躍をこそ、町の人々がスリリングな娯楽みたいに構えているほどの、そりゃあもうもう、破天荒なまでの正義の味方。(何やそれ・笑)大きな瞳にまだまだ童顔の、モンキー=D=ルフィ親分といやぁ、火消しや鳶の兄さん方に負けないくらい、町の衆から絶大な人気を集めている親分さんであるそうな。





 そんな親分さんだが、なにぶんにもまだ十代という若さなので、駆け出しだという以前に、ちょいと世慣れていない部分も大かりしだったりし。

  ――― おいおい、そんな人生経験の浅いのが、
       人をしょっぴくお勤めに就いてもいいのかと、

 世が世なら糾弾されてるトコでしょが。まま、くどいようだが正式な資格は降りていないお立場、ぶっちゃけ、町の消防団の方々よりも権限はないかも知れないほどという身なのだ。よって、管轄における立場や応用力と、公的な存在ではないからこその…いちいち上役に届けを出してそれが判を押されて返って来てからじゃないと動けないお役人と違い、融通の利く身ならではな機動力とを買われての“お役目”なのだから、堅いことは言わないの。

  ………で、話を戻しますが。

 それでなくともまだまだ青い年代の親分は、それがための暴走というのも結構やらかしており。犯人逮捕にばかり目が行っての、通りすがりのお店を損壊とか、まだ確証が固まる前の容疑者に勇み足からの喧嘩を吹っかけての暴行予備とか。一応は“正当な証文”を取り交わした代物とはいえ、どう考えたって利率が法外な借金の取り立てに来たごろつきを片っ端から薙ぎ倒し。その高利貸へのお調べが入る切っ掛けを作りはしたが“喧嘩両成敗”にて謹慎を食らったり、途轍もない手柄を立てる一方で、そういった黒星も山ほど上げておいでの親分なので、見守る周囲は実を言えば気が気じゃあない。お叱りを受けるだけで留まりゃまだいい、無謀な相手へ突っ込んでって、取り返しがつかないほどもの大怪我でも負ったら? 一応はウソップという下っ引きが、補佐という格好でついていはするものの、ちょいと臆病な青年なので、荒ごとになれば腰が引けての逃げ回ってしまう、その結果。事態が乱闘にでもなれば、ルフィ親分が一人であたっているも同然で。悪魔の実の能力者だから“人外の力”も使えはするが、それを持ち出すなら相手の悪党にもそういった能力者は山ほど顔を揃えており。多勢に無勢で危ない時もたまにはあって。

  ――― ところが。

 親分が危急の時には、どうやって嗅ぎつけるんだか、どこからともなく現れる謎の人物がいたりする。孫悟飯にはピッコロ大魔王が、セーラー服の美少女戦士には いちいち一句詠まんと出て来られないタキシードのお兄さんがいたように。
(こらこら) 親分さんが危機一髪な窮地に立たされると“しょうがねぇな”と姿を現すのが、随分と擦り切れた雲水姿のお坊様。これがまた…宗教関係者がそんな暴れもんでいいのかというほど、滅法 腕の立つお坊様で、しかも手にした錫杖は仕込みになってもおり、他にも2本の合計3本という刀を一度に操っての、見事な大殺陣まで繰り広げることが出来るというから。…だったら最初っから同行しなよと思わんでもないが、これもまたこういう手の活劇ものには付きものの、困ったお約束を背負っておいでの彼こそは、

  「ぞろ?」

 意外なタイミングでその姿を見たものだから。ルフィ親分、ついつい平仮名で呼んでしまった。時刻は随分と遅い宵の末。早寝早起きが信条な、至っていい子の親分にはちょいと辛い時間帯の見回りのその途中で、町屋の間の路地からふらふらっと出て来た人影があり。なんだなんだと提灯の明かりを差し向けたところが、ずんとくたびれた墨染めの僧衣にも見覚え大有りの、緑頭の坊様だったもんだから。親分にすれば、びっくりしたの何のって。だっていつもは、何でもない時に出会えば、さんざからかったり与太話の相手になってくれたりと、こちらがワクワクするよな気さくさで気持ちよく構ってくれるし。お役目の最中に窮地に陥れば、どこからともなく現れての必ず助けてくれる人。それが今宵は彼の側が、こんな窮状に陥っているなんて。
「おいっ、どうしたんだよっ!」
 大慌てで駆け寄って、尻っぱしょりに紺パッチ、ひょろっとした足元を折ると深々と屈み込み、しっかりせよとのお声を掛ける。
「どっか怪我してんのか? それとも何かに中
あたったか?!」
 拾い食いとかしたんじゃあんめいな、この時期はそれでなくとも食いもんの足が速いんだぞ? 速いったって翔ってく早さじゃなくってだな…と。焦っているからこその、浮足立って。何が何だかというよな、とんでもない物言いをしてしまっていた親分だったが、
「〜〜〜〜〜。」
「ぞろっ!」
 う〜んと唸るばっかりで、一向にツッコミも入らないとは、危急も危急、とんでもない一大事じゃあなかろうかと、

  「…っ!」

 そうと思い知った途端の、親分の目付きが…いきなり切り替わる。相手が誰であろうと変わらない。困っているお人には力を尽くす、そんな“正義の熱意”に火がついたらしくって。腕を掴むと ぐいと引き、がっしりとして筋骨もぎゅうぎゅうに詰まっているその上に、自分よりも一回りは大きかろう上背のある相手を、背中へと引っ張り上げての担ぎ上げ、よいしょと立ち上がるところはなかなかの力持ちっぷり。
“…え?”
 意識が朦朧としているらしいお坊様が、それでもギョッとした手際を見せた親分は、
「待ってな、今すぐ医者のセンセーに診てもらうからな。」
 お前さんもよくよく知ってる青っ鼻のトナカイのセンセーだ、よしかと。訊いた答えも待たぬ端から、せーのと勢いをつけるよな声を出すと、ぐんと身を沈めての身体へバネをため、

  「ゴムゴムのハイダッシュ!」
  「…っ。」

 こういう応用も出来るんですよということか。ゴム鉄砲の勢いもかくや、ダッと地を蹴っての正しく“飛ぶような”凄まじい勢いで、一直線に駆け出している。背に負うた負傷者の足元が宙に浮くほどもの速さは、親分にしても記録ものの加速であったらしく、
「…お〜っとっとっ。」
 危うく通り過ぎるところだったと、これまたいきなり停止したものだから。慣性のあおりで、向かう先へぐいんと伸びた背中や肩に振り回された格好になり、
「〜〜〜。」
「あれ? おい、坊さん? ゾロっ!?」
 今度こそは、意識を失ってしまったお坊様だったようでございます。怪我人の容体を重くしてどーすんだ、親分たら。









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  *いや、そんな深刻なお話じゃあないのですが、
   ワンピの更新が随分と間延びしていたので、とりあえずの前半だけ。
(苦笑)